はじめから結論を言いますが、会社員が副業として司法書士業務を行うことは、法律上は可能でも実務上は非常に難しいです。
インターネット上には、「法律(司法書士法)上は問題ないからできる」と書かれている記事もありますが、あまり適切とはいえません。
なぜできないかについて、会社員として勤務しながら副業で司法書士業務を行うには、さまざまな壁が存在します。これらについて1つずつ解説していきます。
勤務先の就業規則
まず最初のハードルは、勤務先の就業規則です。
多くの企業では
「会社の許可なく副業を行ってはならない」
「業務に支障をきたす行為は禁止とする」
といったような規定が存在します。このほか、職務専念義務が定められているケースも多いです。
そして、司法書士業務は以下の点から「単なる軽い副業」とは見なされにくい傾向があります。
- 国家資格を用いた専門業務
- 個人事業主としての開業が前提
- 責任が重く社会的影響が大きい
例えば、当所で行っている「WEBライティング」事業であれば、空き時間で行うことができるため、少なくとも「業務に支障をきたす行為」には該当しづらく、趣味の範囲で押し通せるかもしれません。しかし、司法書士は専門家であり、「軽い副業」には該当しません。
以上のことから、
- 副業許可を会社から正式に取得
- 業務内容・時間・利益相反の説明
- 勤務先の本業に支障をきたさないこと
これらが必須となります。
司法書士法上の壁
司法書士法では兼業禁止するという明確な条文はありません。そのため、他士業(たとえば行政書士)と兼業している司法書士は多いです。
重要なのが以下の点です。
司法書士は原則として独立した業務
司法書士は公的性格を持つ資格であり、司法書士事務所や司法書士法人以外の一般企業から常勤雇用されながら業務を行うことは想定されていません。
また、司法書士会も基本的に副業には否定的と考えておきましょう。今の勤務先を(書類上は)退職した後でないと登録できないケースもあります。
登録には事務所の設置が必要
司法書士として業務を行うには必ず
- 司法書士会への登録
- 事務所の設置
が必要です。そして、事務所には司法書士が常駐するのが原則です。空いた時間に自宅で少しだけ副業という形は制度上かなり難しいのが実情です。
依頼を受ける義務
司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができません(司法書士法21条)。
そのため、会社員だろうが、依頼が来た以上は原則として受けなければなりません。正当な事由がある場合は拒むこともでき、この「正当な事由」には事務所輻輳(忙しすぎる)などが該当します。一方で会社員として働いているというのは「正当な事由」には該当しないと考えられます。
よって、会社員と兼業すると、司法書士の義務である「依頼を受ける義務」を果たせなくなってしまいます。実際に仕事がくるかどうかは別として、司法書士の義務を果たせない状況なのであれば、司法書士であるべきではないです。
秘密保持義務
司法書士又は司法書士であった者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない(司法書士法24条)と定められています。
例えば、副業で司法書士業務を行っていたとして、本業の勤務先において「あの相続は大変だった」というような発言をしてしまった場合、秘密を他に漏らしたとして秘密保持義務違反となりかねません。
時間の問題
司法書士業務は以下のような特徴があります。
- 平日の日中に法務局へ出向く必要がある
- 金融機関・不動産会社との調整が平日昼間中心
- 決済立会いは基本的に平日昼間
会社員の勤務時間とほぼ完全に重なります。
そのため、
- 有給を頻繁に使う
- フレックス勤務で調整する
- 週末のみ業務に限定する
- 夜勤のみのシフトで働く
といった工夫が不可欠ですが、それでも「本業と両立」は現実的に厳しいケースが大多数です。
不動産登記(売買等)
上記のとおり、決済立会いは基本的に平日昼間が多いです。不動産会社や金融機関とのやりとりも平日日中に行います。金融機関は平日日中にしか開いていないため、一般的な会社員の勤務時間と被ります。
そのうえ、決済立会の時間は不動産会社側が指定します。司法書士が指定することはほぼありません。
そのため、副業司法書士が売買等を行うことは不可能です。
相続登記
相続登記は、基本的に自分のケースで行えるため、対応可能に見えます。実際に依頼を受けて登記完了まで行うことも不可能ではありません。
上記の司法書士の義務が果たせるかどうかは別として、依頼が相続登記だけで済むのなら副業でできなくはないでしょう。
ただし、中には相続登記を急ぎで入れる必要があったり、相続登記した後売りたいという依頼者もいます。依頼を受ける義務がある以上、相続登記「だけ」をするというのはなかなか難しい話です。
商業登記・法人登記
商業登記や法人登記は、単に登記手続き「だけ」をするのであれば副業でも全く問題ないでしょう。
しかし、会社や法人からの依頼や問い合わせは基本的に平日にきます。しかも、平日日中に電話がかかってきたりするため、本業に支障が出ます。
株式会社や一般社団(財団)法人、士業法人など、一部は設立の際に公証人との打ち合わせも必要です。そして公証役場も平日日中しか営業していません。
実際のところ、副業で行うのは難しいです。
裁判所関係の業務
裁判書類作成関係業務
裁判書類作成関係業務とは裁判所若しくは検察庁に提出する書類等の作成(たとえば相続放棄申述書、後見開始申立書、告訴状など)であり、書類を作成するだけであるため、できそうに見えます。
上記の司法書士の義務が果たせるかどうかは別として、依頼が裁判書類作成関係業務だけであれば、副業ですることも不可能ではないでしょう。
なお、裁判書類作成関係業務は、簡裁訴訟代理等関係業務ではないため、依頼を受ける義務の対象である点に注意が必要です。
簡裁訴訟代理等関係業務
簡裁訴訟代理等関係業務とは、弁護士のように簡易裁判所での訴訟代理人になる業務のほか、債務整理(破産や個人再生等)、建物明渡訴訟などの裁判関係の業務です。
裁判所は平日日中にしか開庁していないため、簡裁訴訟代理等関係業務を副業で行うことはできません。
登録形態の選択肢
司法書士登録には以下があります。
| 登録形態 | 副業との相性 |
|---|---|
| 個人開業 | 最も一般的だが時間的負担大 |
| 司法書士法人勤務 | 副業としてはほぼ不可 |
| 補助者的関与 | 司法書士登録せず関与する方法もある |
副業として現実的なのは
「会社員+個人開業(限定業務)」という形ですが、実際にはほとんどいません。
副業司法書士が現実的なケース
以下の条件が揃えば可能性は高まります。
- 勤務先が副業を全面容認している
- フルリモート・フレックス勤務
- 取扱業務を限定(相続中心など)
例えば:
- 休日中心の相続相談
- 書類作成のみのスポット業務
- 家族・知人紹介案件に限定
このような形なら「副業として成立する」可能性はあります。
また、司法書士業務を行わなければならないわけではないため、「司法書士ライター」のように、そもそも司法書士業務を行わないように工夫するという方法も考えられます。ただし、何度も書いているように司法書士業務の依頼が来たら正当な事由なく断れないので注意しましょう。
まとめ
会社員が副業として司法書士業務を行うことは
法律上は可能だが、実務上は難しいです。
副業で行おうとすると、司法書士の義務を果たせなくなる可能性があります。
単なる収入目的よりも
「将来的な独立へのステップ」として位置づける方が現実的です。
そもそも、司法書士として稼げる実力があるのなら、司法書士のみに専念すべきです。
