近年、AI(人工知能)の技術は急速に進歩し、文章作成や画像生成、音声認識など、かつて人間しかできないと思われていた作業もコンピューターがこなせるようになってきました。
法律分野でも、契約書の自動作成や判例検索、相談内容の自動分析など、AIを活用する事例が増えています。
では、不動産の名義変更手続きである相続登記もAIを使ってできる時代が来ているのでしょうか。本記事では、法律的な制限と実務的な可能性の両面から詳しく解説します。
相続登記とは
一般的にいわれる相続登記とは、「相続」を原因とする不動産の所有権の登記を示します。相続が発生すると所有権は被相続人(亡くなった方)から相続人へと移転します。このときの所有権移転による名義変更が相続登記です。
権利に関する登記がない不動産においては所有権保存登記、権利に関する登記がある不動産においては所有権移転登記がされます。
2024年4月からは相続登記が義務化され、不動産を相続した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。これを怠ると、最大10万円の過料が科される可能性があります。
AIを使って相続登記ができるか?
AIで相続登記ができる?
結論から言うと、AIのみで相続登記を行うことはまだ難しいです。
理由は以下の通りです。
- 登記申請において申請書や添付書類に1つでも不備があると通らない
- 例えば、申請書において表示する不動産の表示において、建物の「家屋番号」が抜けていたりすると補正が必要となります。
- 遺産分割協議書等も登記に使用できるものでなければなりません。誤字脱字があると補正の対象となる可能性があります。
- 専門的な知識が必要なケースでは対応が難しい
- 例えば、長期間相続登記がされていない不動産では、法律の専門的な知識が必要です。いつから「家督相続」が廃止されたか?など、専門的なことはAIでは判断が難しいことがあります。
- 書類収集の補助はできなくはないが…
- 書類の収集はサポートを受けられますが、必要のない書類を案内されたり、逆に必要な書類が案内されないケースも考えられます。書類に不備があると登記の申請は通りません。
AIが相続登記に「活用できる」分野
AIに申請そのものや、申請書類作成の丸投げはできませんが、準備・サポートの分野では活用可能です。
必要書類の案内
AIは「誰が相続人か」「どの書類が必要か」などを質問形式で案内できます。
ただし、一番最初の相続人の判断に誤りがあると手続きを1からやり直す必要が出てくる可能性があります。
以下、当事務所で使用しているAIに対し、「相続登記申請に必要な書類を教えてください」と聞いてみました。
AIが回答した相続登記申請に必要な書類一覧
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(改製原戸籍・除籍謄本を含む)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍附票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産評価証明書
- 公図または地図(必要に応じて)
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名押印があるもの)または遺言書
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書や遺言執行で必要な場合)
- 登記申請書
- 相続関係説明図(任意だが提出推奨)
- 代理権限証書(司法書士など代理人が申請する場合)
住民票は必ずしも相続人全員分必要とは限りません。また、「不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)」や「公図または地図」は登記状況等を調べるために取得するものですが、法務局へ提出する必要はありません。このほかにも相続放棄をしている人がいる場合は「相続放棄申述書」等が必要です。このように、必要書類の案内としては不十分と言える点もありますが、案内された必要書類の一覧としてはおおむね合っていることが分かります。
そのため、自身で相続登記を申請する場合において、必要書類を調べるという面において補助として活用できると言えるでしょう。
書類の下書き作成
相続関係説明図や遺産分割協議書のひな形をAIで作成可能です。ただし、相続登記に使えるものでなければなりません。
最終確認は人間が行う必要があります。
不動産情報の整理
固定資産評価証明書や登記簿の情報を入力すれば、AIが一覧化や整理をサポートできます。
チェックリストの提供
漏れがないか確認するチェックリストをAIが生成して、申請準備の抜け漏れを減らせます。プロンプト次第で、上記の「AIが回答した相続登記に必要な書類一覧」にチェックリストをつけることができます。
相続登記申請へのAI活用のメリットと注意点
メリット
- 必要書類が分からなくてもおおむね案内可能
- 手続きの全体像を短時間で理解できる
- 必要書類や期限の確認が効率化
- 下書き作成で作業時間を短縮できる
注意点
- 相続人が100人いたり長期間相続登記を放置している場合など、困難な案件では歯が立たない
- AIは最新の法改正に必ずしも対応しているとは限らない
- 書類の最終的な適法性判断はできない
- 誤った情報を鵜呑みにすると登記申請が補正となったり却下される可能性あり
AIと専門家の併用が現実的
AIはあくまで情報提供と下書き支援のツールであり、結局のところ相続登記の申請や法的判断は司法書士に任せるのが安全です。
特に以下のケースでは専門家の関与が不可欠です。
- 相続人が多数いる
- 相続人の中に行方不明者や未成年者がいる
- 遺産分割協議がまとまらない
- 複数の不動産があり評価が複雑
まとめ
AIに相続登記申請を任せたり、申請書類作成の丸投げはできませんが、書類作成の下書きや必要書類案内など、準備段階ではサポートツールになり得ます。
ただし、相続人一人で不動産一つなど、最も簡単なケースではAIでも対応できなくはないですが、不備があると補正のために何度も法務局へ通う必要が出てきたりして、最終的に司法書士に任せた方がよかったと思うケースがほとんどです。
AIを賢く使いながらも、専門家との連携を前提に進めることが、最も効率的かつ安全な方法です。


