インターネットやSNSの普及により、個人が自由に意見を発信できる時代になりました。一方で、匿名性を背景に他人を傷つけるような投稿も増加しており、深刻な社会問題となっています。特に、Twitter(現X)やInstagram、YouTube、TikTokのコメント欄などで行われる誹謗中傷は、被害者に大きな精神的苦痛を与えるだけでなく、場合によっては社会的信用の喪失や命に関わる事態にもつながりかねません。
では、その「誹謗中傷」は何らかの罪に問われる可能性はあるのでしょうか?実は、あります。そのうちの一つに「侮辱罪」という罪があります。
今回は、SNSにおける誹謗中傷が「侮辱罪」としてどのように扱われるのか、法律の専門家として詳しく解説します。
侮辱罪とは
侮辱罪とは、公然と人を侮辱することで成立する犯罪です。刑法第231条に規定されており、「ばか」や「気持ち悪い」など、具体的な事実を述べずに相手の人格を否定・貶める表現が対象となります。この「ばか」や「気持ち悪い」というものは、事実ではなく評価に該当します。
刑法231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
なお、「あいつは犯罪者だ」などというように事実を述べる行為は、侮辱罪ではなく「名誉毀損罪」になり得ます。その述べた事実がウソであったとしても名誉毀損罪が成立し得ます。
成立要件
以下の要件を満たすと侮辱罪が成立します。
- ① 公然性
不特定多数が認識できる状況であること。SNSや掲示板、YouTubeのコメント欄などは公然性が認められやすい場です。たとえフォロワーが0人のアカウントであったとしても成立し得ます。 - ② 事実を適示しないこと
上記の「ばか」や「気持ち悪い」は事実ではありません。事実を適示して行われる誹謗中傷は、侮辱罪ではなく名誉毀損罪が成立する可能性があります。 - ③ 侮辱したこと
上記の「ばか」や「気持ち悪い」は侮辱にあたります。
侮辱罪は親告罪とされています。被害者が告訴をすることによって、はじめて公訴が提起されることになります。これは、その侮辱の表現が公訴によって知れ渡ってしまうと、かえって被害者の名誉が害されてしまう恐れがあるためです。
例えば有名なスポーツ選手がフォロワー数0人のTwitterアカウントに「ばか」などと誹謗中傷されたとして、そこで公訴が提起されるとその「ばか」という表現が広く知れ渡ってしまい、かえって「ばか」だとの誹謗中傷が広がってしまう恐れがあります。
SNSで袋叩きのように誹謗中傷を受けているケースを見たことがある方も多いでしょう。侮辱罪を親告罪としておかないと、そうなってしまう恐れがあります。面白半分で誹謗中傷をする者や、「周りが誹謗中傷してるから自分もやる」という考えで誹謗中傷する者がかなり多いためです。
侮辱罪の法定刑と改正
SNSなどでの誹謗中傷があまりにも多く、社会問題になっている点もあり、侮辱罪の刑罰は大幅に引き上げられました。
改正前の法定刑(旧法)
- 拘留(30日未満の身柄拘束)
- 科料(1万円未満の罰金)
改正後の法定刑(現行法)
- 1年以下の拘禁刑
- 30万円以下の罰金
- 拘留・科料
さらに、刑事訴訟法の改正により、公訴時効も1年から3年に延長されました。
SNSにおける侮辱罪の具体例
以下のような投稿が侮辱罪として処罰される可能性があります。
- SNSで「お前の顔は気持ち悪い」と書き込む
- 匿名掲示板で、芸能人に対して「消えろ」「見るだけで不快」などと記載
- YouTubeのコメント欄にて配信者へ「バカじゃねぇの」などの投稿
こういうものはSNSを見ていると頻繁に見かけるものですが、侮辱罪が成立する恐れがあるということは覚えておきましょう。
被害者がとるべき対応
侮辱的な投稿を受けた場合、以下の手順をとることで刑事・民事の責任追及が可能になります。
証拠の保存
- スクリーンショット(日時・ユーザー名を含む)
- 投稿URL
- ログのダウンロード
削除・発信者情報開示請求
- プラットフォームに削除依頼を行う
- プロバイダに対して発信者情報開示請求(裁判所の手続きが必要)
告訴
- 侮辱罪は親告罪のため、告訴が必要
- 弁護士を通じて手続きを行う
民事責任
誹謗中傷は不法行為(民法709条)に当たり、加害者は損害賠償請求を受ける可能性があります。
まとめ
SNS上の誹謗中傷は、たとえ抽象的な悪口であっても侮辱罪として処罰される可能性があります。そして、刑法改正により侮辱罪の法定刑は強化され、拘禁刑や罰金刑に処せられる可能性もあります。
被害者は証拠を保存し、速やかに告訴・開示請求・削除請求を進めることが重要です。状況によっては損害賠償請求も検討しましょう。まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。
加害者側も、自身の投稿が犯罪と評価されうることを十分に理解し、安易な気持ちでの誹謗中傷を避け、SNS上の表現には細心の注意を払うべきです。


