相続が発生したとき、相続人が複数いる場合には遺産分割協議などの調整が必要になりますが、相続人が一人だけの場合は、そのような煩雑な手続きが不要になる場面も多く、比較的スムーズに進むことが特徴です。
しかし、「一人だから簡単」と思い込んでいると、必要な手続きを怠ってしまい、後で不利益を被ることもあります。今回は、相続人が単独の場合に必要な相続手続きについて、わかりやすく解説します。
相続人が一人になるケースとは?
相続人が一人になるのは、たとえば以下のような場合です。
- 配偶者も子もおらず、唯一の相続人が長男一人である
- 配偶者はすでに亡くなっており、子どもが一人だけ
- 被相続人が独身で、兄弟姉妹のうち一人だけが存命
- 他の相続人の全員が相続放棄をした
このように、法定相続人が一人である場合、他の相続人との調整が不要となるため、手続きはシンプルになります。
本当に相続人が一人なのかは確認必須
他に相続人がいることが後になって判明することも珍しいことではありません。
例えば、被相続人(亡くなった方)に前配偶者がおり、その前配偶者との間に子がいる場合、その子も相続人になります。
よって、相続人は自分1人しかいないと思っている場合であっても、相続人調査は必須です。
遺産分割協議は不要
相続人が一人だけであれば、遺産分割協議などの遺産分割に関する手続きは不要です。遺産はそのまま単独相続されます。よって、以下のような手続きが単独で可能です。
- 不動産の相続登記
- 銀行口座の解約・名義変更
- 株式の名義変更
- 自動車やその他資産の名義変更
相続手続きの主な流れ
相続人が一人でも、以下の基本的な流れは変わりません。
死亡届の提出
被相続人が亡くなったことを知った日から7日以内に死亡届を提出します。
国外で死亡した場合は3ヶ月以内に提出が必要です。
遺言書の確認
遺言書の有無を確認します。公正証書遺言があるか、または自筆証書遺言があるかを確認します。自筆証書遺言がある場合は、家庭裁判所での検認が必要です。
遺言書があり、受遺者(財産を受け取る人)が他に指定されている場合、その財産を受け取れませんので注意が必要です。
相続人の確定
上記で解説した通り、たとえ自分が一人だと思っていても、戸籍等を収集して本当に他に相続人がいないかを調査する必要があります。
相続財産の調査
預貯金・不動産・株式・借金など、プラスの財産とマイナスの財産をすべて洗い出します。
相続の方法を決定
財産の承継をどうするかを決定します。
- 単純承認(すべて相続する)
- 限定承認(負債の範囲を限定する)
- 相続放棄(相続しない)
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済することです。限定承認も相続放棄もしなかったときは、単純承認したものとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産(借金等)もすべて承継します。
上記のうち、限定承認はほとんど利用されていません。限定承認をするには財産目録を作成し、家庭裁判所に限定承認をする旨を申述しなければなりません。この手間はかなり大きく、借入金より財産が多い場合は単純承認を、逆に借入金が多い場合は多少の財産があっても相続放棄をした方がよいケースがほとんどです。
相続税の申告(必要な場合)
相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告が必要です。相続人が一人の場合、基礎控除額は3,600万円です。
この相続財産の額には、現金や預金だけでなく、不動産や有価証券などの財産も含まれますので注意が必要です。
各種名義変更・解約手続き
不動産や預金、車両などの名義変更を行います。
また、保険や年金などに関する手続きも必要となります。例えば、国民健康保険に加入している方が亡くなった場合は資格喪失の手続きが必要となります。
不動産を相続する場合の注意点
2024年4月から「相続登記の義務化」が始まっています。
不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。
相続登記義務化より前に相続した不動産については、2024年4月1日から3年以内、つまり2027年3月31日までに相続登記を申請しなければなりません。
正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
過料を受けることはあるのか?
この過料について、本当に処せられるのか?どのように適用されるのか?といったことについてさまざまな意見を聞くことがあると思います。
例えば、
- 「法務省がわざわざ調べて過料にするのか?」
- 「確実に過料になる。過料の対象者を探すための調査が行われているのでは?」
- 「不動産1個ごとに10万円以下の過料となるのでは?」
といったような見解を聞くことがあります。
いずれにしても、過料が始まるのは最も早くて2027年4月であるため、この記事の投稿日(2025/6/22)現在では、誰も過料を受けていません。どのように過料が適用されるかはまだ誰もわからないのが現状です。
相続放棄したい場合の注意点
相続人が一人でも、借金などマイナスの財産のほうが多い場合には、家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行うことができます。
ただし、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きをしなければならないため、迅速に判断することが求められます。申述手続きなどを含めると、3か月というのはかなり短いです。
また、相続放棄をした場合、預金などのプラスの財産も放棄することになりますので注意しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 他に相続人がいないか調査しないといけないか?
A. はい。法的に確定するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集して、他に相続人がいないことを証明する必要があります。
法改正により、戸籍証明書等の広域交付が可能となり、本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍証明書や除籍証明書等を請求できるようになりました。これにより個人でも戸籍収集がしやすくなりました。
不明な場合は専門家に相談するとよいでしょう。
Q. 遺言書があっても手続きが必要?
A. はい。遺言書がある場合も、内容に従って登記や口座解約などの手続きが必要になります。
Q. 誰に相談したらいいか?
A. 相続といっても手続きは多数あり、それぞれによって専門家がいます。相続人が一人のケースにおいて、誰に相談したらよいか分からないときは、弁護士、司法書士または税理士のうちどれかに相談するとよいでしょう。
特に、不動産がある場合は登記手続きが必要となるため司法書士の専門分野となり、相続税の申告が必要な場合は税理士の専門分野となります。
まとめ
相続人が一人だけの場合、手続きは比較的スムーズですが、戸籍の収集や登記、税務申告などの基本的な手続きは必須です。特に、後から相続人がいたことが判明したということにならないよう、しっかり調査が必要です。
また、相続放棄や相続登記義務にも注意が必要です。
手続きに不安がある場合は、弁護士、司法書士、税理士といった専門家に相談することで、正確かつ迅速に進めることができます。


