芸能人やスポーツ選手など、著名人の名前や写真などを商品や広告に使用する場合には、注意が必要です。
例えば、本人の許可なく有名人の写真を広告に掲載したり、商品パッケージに使用したりすると、「パブリシティ権」の問題が生じることがあります。
では、そもそもパブリシティ権とはどのような権利なのでしょうか。また、「名前」を利用するだけでもパブリシティ権の侵害になるのでしょうか。
この記事では、パブリシティ権の意味や注意点を中心に解説します。
パブリシティ権とは
パブリシティ権とは、肖像権のうち、著名人などが持つ名前や肖像などの顧客吸引力を、本人が排他的に利用することができる権利です。
芸能人やスポーツ選手、有名ティックトッカーなどの写真や画像には、単なる個人を識別するための情報を超えて、「この人が紹介している商品だから購入してみよう」「この人の写真が載っているから商品を手に取ってみよう」と消費者を引きつける力が存在する場合があります。
このような経済的な価値を持つ肖像などを、本人の許可なく商品販売や広告などに利用されることから保護するのがパブリシティ権です。
最高裁判所の判例では、人格権として、パブリシティ権も憲法で保障されるとしています。
パブリシティ権とプライバシー権の違い
プライバシー権とは、肖像権のうち、承諾なくみだりに容貌などを撮影されない自由です。有名人に対して保証されるパブリシティ権とは異なり、何人もプライバシー権が保障されます。
パブリシティ権と「名前」の関係
パブリシティ権というと、写真や肖像を無断で使用するケースをイメージする人が多いかもしれません。
しかし、保護の対象となる肖像等には、有名人の氏名も含まれます。
例えば、著名な芸能人の名前を商品名や広告に使用して、「この芸能人が関係している商品である」と消費者に認識させるような使い方をすれば、パブリシティ権が問題となる可能性があります。
最判平24年2月2日(ピンク・レディー事件)
パブリシティ権について理解するうえで、非常に重要なのが、いわゆる「ピンク・レディー事件」です。
この事件では、週刊誌の記事の中で、ピンク・レディーの写真が使用されたことで、パブリシティ権が侵害されたとして損害賠償請求を求めた事件です。
これに対して最判平24年2月2日では、
「肖像等(人の氏名、肖像等)を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
としています。
なお、同事件の実際の事案では、顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないとして、請求が棄却されました。
名前を使うだけでも問題になるのか
では、写真を使用せず、名前だけを使用した場合はどうでしょうか。
上記の最判平24年2月2日では、判旨において人の氏名、肖像等は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解されるとしています。
よって、有名人の名前を無断で利用するだけでもパブリシティ権が問題になる可能性があります。
例えば、著名人の名前を広告に大きく掲載し、その著名人が商品を推奨しているように見せる場合、その名前が持つ顧客吸引力を利用していると評価される可能性があります。
一方で、顧客吸引力の利用を目的とするといえない場合、例えばニュース記事や評論の中で、その人物の名前を単に記載するだけであれば、パブリシティ権侵害とは認められない可能性もあります。
パブリシティ権侵害が問題となる場面
現代では、パブリシティ権が問題となる場面は広告や商品だけではありません。
インターネットやSNSの普及によって、著名人の名前や写真を簡単に利用できるようになりました。
例えば、著名人の名前を使った商品紹介ページを作成したり、本人の写真を無断で掲載して商品を宣伝したり、本人が関係しているかのような表示をしてサービスを販売したりすると、パブリシティ権の問題が生じる可能性もあります。
特にインターネット上では、一度掲載した情報が短時間で広範囲に拡散することがあります。
そのため、企業が広告やウェブサイトで著名人の名前や写真を利用する場合には、権利関係を事前に確認しておくことが重要です。
まとめ|パブリシティ権について知っておくべきことは?
パブリシティ|は、「有名人の名前や写真を勝手に使ってはいけない」という単純なルールではありません。
重要なのは、その名前や肖像などが持つ顧客吸引力を利用する目的があるかどうかです。最高裁判所は上記の「最判平24年2月2日」において、典型的な3つの類型を示しています。
一方で、著名人に関する報道や評論などについてまで広くパブリシティ権侵害とすることは、憲法において保証される「表現の自由」を不当に制限することにつながります。そのため、実際の判断では、名前や写真を使用したという事実だけではなく、使用目的や使用態様などを具体的に検討する必要があります。
パブリシティ権には、著作権のように一つの法律に詳細な規定が設けられているわけではありません。
しかし、著名人の名前や写真を広告、商品、ウェブサイト、SNSなどで利用しようとする場合には、単に「名前を掲載するだけだから問題ない」と考えるのではなく、その利用によって本人の知名度や顧客吸引力を利用することにならないかを確認する必要があります。
パブリシティ権とは、著名人の名前や肖像などが持つ経済的な価値をめぐる重要な法律上の問題です。特に広告や商品販売など、営利目的で名前や肖像を使用する場合には、慎重な検討が必要になるでしょう。
