いわゆる「取適法」や「中小受託取引適正化法」と呼ばれる法律は、正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。2026年に下請法(下請代金支払遅延等防止法)が大幅に改正され、「取適法」となりました。
この法律の趣旨は、立場の強い事業者が、立場の弱い事業者に対して不当な取引をすること
を防ぐための法律です。
このポイントは、発注者と受注者の会社の規模関係に着目している点です。
取適法で規制される事業者について
取適法では、発注する側(委託事業者)が規制対象になります。
委託事業者に当たるかどうかは、
取引の種類と資本金の額 で決まります。
製造委託等の場合
「製造委託等」とは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託及び特定運送委託をいいます。特定運送委託は、取適法への改正により追加されました。
特定運送委託とは、事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいいます。わかりやすくいうと、自社の物品の運送を運送事業者に委託する取引のことです。
製造委託等の場合、以下のとおりとなります。
| 委託事業者(旧:親事業者) | 中小受託事業者(旧:下請事業者) |
|---|---|
| 資本金3億円超の法人 | 個人または資本金3億円以下の法人 |
| 資本金1千万円超~3億円以下の法人 | 個人または資本金1千万円以下の法人 |
| 常時使用する従業員の数が300人超の法人 | 個人または常時使用する従業員の数が300人以下の法人 |
という関係だと、委託事業者が取適法の規制対象になります。この表のうち3段目は、取適法への改正の際に新設されました。
情報成果物作成委託・役務提供委託の場合
情報成果物作成委託とは、ソフトウェア開発、デザイン業務、WEB記事作成など、役務提供委託とは、クリーニング、データ入力などがあたります。
この場合も同様に、資本金の大小関係で決まります。
| 委託事業者(旧:親事業者) | 中小受託事業者(旧:下請事業者) |
|---|---|
| 資本金5千万円超の法人 | 個人または資本金5千万円以下の法人 |
| 資本金1千万円超~5千万円以下の法人 | 個人または資本金1千万円以下の法人 |
| 常時使用する従業員の数が100人超の法人 | 個人または常時使用する従業員の数が100人以下の法人 |
という関係だと、委託事業者が取適法の規制対象になります。この表のうち3段目は、取適法への改正の際に新設されました。
なお、プログラムの作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理は、上記の製造委託等と同じ基準が適用されます。
取適法の対象にならないケース
逆に、次のような場合は取適法の対象外となります。
- 委託事業者に相当する事業者が個人事業主
- 委託事業者に相当する事業者の資本金の額が1000万円以下かつ従業員の数が100人以下
- 製造委託等や情報成果物作成委託・役務提供委託といった規定された取引類型に当たらない
そのため、ここで問題になってきたのが、いわゆる「フリーランス問題」です。
フリーランス新法とは?
そこで登場したのが
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律『(フリーランス・事業者間取引適正化等法)または(フリーランス新法)』 です。本記事では以下、「フリーランス新法」と表記します。
この法律は、取適法では守りきれなかった個人事業者またはそれに相当する事業者を保護するための法律です。
フリーランス新法で規制される事業者
フリーランス新法では、
発注する側の事業者(業務委託事業者) が規制対象になります。これ自体は取適法と同じですが、対象となる事業者が大きく異なります。
特定業務委託事業者とは?
まず、業務委託事業者とは、取適法でいう「委託事業者(旧:親事業者)」に相当する者で、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいいます。
そして、特定受託事業者とは、取適法にいう「中小受託事業者(旧:下請事業者)」に相当する者です。特定受託事業者に該当するのは、「個人」、「法人であって代表者以外の役員がなく従業員を使用しない者」をいいます。
業務委託事業者のうち規制対象となる特定業務委託事業者とは、以下の事業者が該当します。
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、2以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
つまり、発注者の資本金の額が1円だったとしても、特定業務委託事業者に該当しうることになります。
対象となる取引
次に掲げる行為が対象となります。
- 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
- 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
※「情報成果物」とは?
- プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
- 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
- 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
- これらに類するもの
もっとわかりやすくいうと
要は、
複数人で行っている事業者が個人事業者に製造や役務提供など一定の行為を依頼する場合、フリーランス新法の規制対象になる
ということです。
つまり、発注者が1人の個人事業主または1人のみの会社・法人であれば、特定業務委託事業者に該当しないことになります。
何が規制されるのか?
代金の支払期日や書類の明示義務などがあります。
本記事ではそれに関する解説は省略し、後日の記事にて改めて解説します。
なお、取適法とフリーランス新法のいずれにも違反する行為が委託事業者から行われた場合は、原則としてフリーランス新法が優先適用されます。
まとめ
| 項目 | 取適法 | フリーランス法 |
|---|---|---|
| 主な保護対象 | 中小受託事業者(会社) | フリーランス(個人・1人法人) |
| 規制される側 | 委託事業者 | フリーランスに発注する事業者 |
| 判断基準 | 資本金や従業員数の差 | 資本金や従業員数の差は関係なし |
| 想定取引 | 企業間取引 | 企業⇔個人の業務委託中心 |
取適法は、
「大きな会社が小さな会社に発注する場面」 を想定した法律といえます。
一方でフリーランス新法は取適法ではカバーできない、
「事業者がフリーランスである個人に発注する場面」 を広くカバーする法律です。
「うちは小さい会社だから関係ない」とは言えなくなっている点が、実務上の最大の注意ポイントです。
